第5章 北へ

2002年夏
私は、誕生日はマラムレシュで、と決めていました。
マラムレシュとは、ルーマニアの北西部の地域。古きよき面影が残る田舎の地域です。
そこは、彼が生まれ育ち、愛している故郷でもあります。
私がその場所を知ったのは、ルーマニアに来てからずっとお世話になっている好青年の故郷でもあり、クリスマスには、その好青年の実家でルーマニアン・クリスマスを体験したからです。
また、みやこうせいという作家が、ルーマニアの写真集や本を出版しており、それはルーマニアの本屋さんでも売っていて、彼が教えてくれたのです。
みやこうせいさんの写真集は、いきいきとしたルーマニアの人々の姿が印象的です。
その上、彼からマラムレシュの話を聞いていると、どんな素敵な場所で彼は育ってきたんだろう!と、行かずにはいられない気持ちになってきました。
私たちはノルド駅から夜行列車に乗りました。
これが初めての二人の旅行です。
ルーマニアには新幹線みたいなものはありません。
列車はゆっくりのんびりと、ルーマニアを北上していきました。

朝、列車の中から見る日の出はとてもきれいでした。
これからマラムレシュへ入るんだと思うと、ドキドキしました。
列車はソメシュ川を渡りました。彼が、子どもの頃、泳ぎをおぼえた川だと教えてくれました。
デジという駅で、列車はいったん止まりました。
霧がすごく出ていました。
彼は1年間の兵役時代、この辺りで過ごしました。この辺はいつも朝は霧が出て、ずっと好きになれなかったそうです。

駅では30分ほど停車する予定だったので、私たちはホットドッグとコーヒーを買いにキオスクへ行きました。
キオスクで並んでいると、「♪タ~ラララ~♪♪」という出発の音楽が鳴りました。
でも彼は、「僕たちの列車じゃないよ。もっと停まっているはずだから」と言い、私も、そうだよね、と思っていました。
その後、笛がなりました。
うーん。私たちの列車っぽいよ。
彼は私にコーヒーを2つ渡し、先に戻るように言いました。
列車に近づくと、その列車は動き出しました。
きゃー、これ私の列車よね?中にいる車掌さんに聞くと、やっぱりバイアマーレ行きです。
私はゆっくりと動き出している列車に、あわてて乗り込みました。
彼もホットドッグを抱えて、走って戻ってきました。
ルーマニアの列車でよかったね。ドアも開けっ放しで出発するし、2人とも乗り遅れずにすみました。
窓辺で朝ごはんを食べ、列車は少し遅れてバイアマーレに到着しました。
懐かしい。こないだ来た時は、雪が積もっていて、駅の外ではクリスマスの太鼓の音がドンドン響いていたな。
初めてのブカレスト以外の街だったし。
でも、そのドキドキと今日のはちょっと違う。

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