第3章 胸の高鳴り

一時帰国からブカレストへ戻ってくると、私はすぐに彼とコンタクトをとり、さっそく会う約束をしました。
彼は会う度に、バラとかチューリップとか、素敵なプレゼントを持ってきてくれました。
それも彼の好感度をアップさせました。

ちょうどその年は、日本とルーマニアの交流100周年記念の年。
ブカレストでは文楽や能・狂言、生け花や茶の湯など、日本文化のイベントがたくさんありました。
私はイベントのたびに彼を誘い、その度にもっと会いたい、もっと知りたい、という気持ちが強くなっていきました。

私たちは少しずつ友達になっていきました。
カフェでコーヒーを飲んだり、映画を見に行ったり、だんだんお互いのアパートにも行くようになりました。

私は大学のファイナルテストに向けて忙しい毎日です。
そんな中、ある日彼は私に打ち明けました。
「6月からフランスに行く」
私は、びっくりしました。
ファイナルテストが終わったら、毎日会える!帰国までの時間を大切にしたい!と思っていました。
それなのに。別れのときがこんなにも早く、突然来るなんて…。胸のざわめきが止まりません。

彼に会っても、寂しさが募るだけ。
それに加え、彼は「電話をするね」と言っても、しばらく連絡をくれないこともしばしば。
私は、「やっぱり1年間の期限付きの滞在だもん。真剣なお付き合いはできないよね」と開き直ろうとしていました。
そんな気持ちを抱え、憂鬱になっていた時、私の話を聞き、一生懸命アドヴァイスをしてくれたのが、ルーマニア人の女の子M。
彼女は日本に留学していた経験があり、日本語も完璧、今は日本関係の仕事をしています。
私はよく彼女とショッピングに出かけたり、ピクニックをしたり、勉強したり、いろんな女の子同士の話をしたりしています。
彼女はルーマニア人でありながら、日本人の気持ちや性格も良く分かってくれる、私の本当の友達です。
Mは、私の彼に対する気持ちを丁寧に聞いてくれて、そしてこう言ってくれました。
「彼にはその気持ちを正直に言うこと。彼はあなたの気持ちに気づいてないのよ。言わなかったら彼はあなたの気持ちは一生分からないよ。それか、本当にあなたに興味がないのか、どちらかだね」
後から考えると、それは本当に、シンプルで当然のアドバイスでした。
だけど、私は、タイムリミットへの焦りも手伝って、客観的に自分のことを見れてなかったんですね。
心を決める時かな。

私は彼に思い切って電話をしました。
「今日、会いませんか」
私は、心に決めていました。彼に私の気持ちを伝えよう、と。
彼は、赤いバラを一輪持って、アパートにやってきました。
6月の初めだというのにとても寒い日でした。
二人の間には不思議な空気が流れていました。
いつ切り出そうか、そればかり考えていました。
彼は私をアパートに誘ってくれました。
彼のルームメイトとRと4人で夕ご飯を食べ、カードゲームをし、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいました。
もっともっと一緒にいたい。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼はさらりと聞いてきます。
「もう帰る?」
そう聞かれると私も、おとなしく、「じゃあ、今日は…」となってしまいました。
ところが、本当に本当に嬉しいことに、帰り道、彼は彼の気持ちをゆっくりと話し始めてくれました。
「こんなことを言うのははずかしいんだけど。君といるのが本当に好き。もっとたくさん話して、距離を縮めたい。」
そして私も、いつも彼のことを考えている、彼が好きという気持ちを伝えました。
彼は、朝まで一緒にいてくれました。

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